昨日塔を探索していた時のこと、前方から黄色い物体が高速で迫ってくるのが見えた。
とっさき避けてなんだったんだろうと振り返ってみると黄色い物体はインプだった。
塔に出るって話は聞いてたけど、最後にあったのはもう何ヶ月も前だったから忘れてたんだ、ここにあいつが出るって事と、あいつの手癖が物凄く悪いことを。
その手に握られていた大切な装備を見るまでは綺麗さっぱりと。
「 Σわー俺の強装備!まてこらそこの黄色いのー!」
おやつを我慢してこつこつと溜めたお金で買った念願の強装備、しかもハロウィン限定バージョンを易々と取られてたまるかと必死に追いかけては見たものの、塔をねぐらにしてるあいつに追いつくはずもなく、結局は見失ってしまいとぼとぼと家路に着くことに。
「あーなんで装備外してこなかったんだ俺、今更後悔しても遅いけど・・はー」
塔に入る前に自分の装備を確認しなかった迂闊さと、ジノさんが言ってたあいつの話をもう少しちゃんと聞いておけばよかったという後悔が頭の中をグルグルと回っていた。
「きいろい〜ボタン〜足元〜注意!ってデュウが良く歌ってたけど、きいろい〜あいつ〜頭上も〜注意〜!って2番作ろうって話そうかな」
帰りがけに出会った友人に塔であった事をひとしきり愚痴ってから家に帰ってきたものの、何もやる気が起きず縹を抱えて寝床でいじける事数時間、気が付いたら眠っていたらしく辺りは真っ暗になっていた。
「あー寝ちまったのか、でもこんな時間に起き出してもしょうがねーし・・・」
「朝までもう一眠りすればいいか」
ごそごそと寝床に丸まりも一眠りしようとしたその時、カチャッという音と共に部屋の中に誰かが入ってくる気配がした。
どうせサダルが夜の散歩から帰ってきたか、ジノさんが様子を見に来たんだろうと気にせづにいたら、頭上から何かが落ちてきた。
「禍福はあざなえる縄のごとく」
「他に気に入った物が出来たり、部屋が狭くなったりしていらなくなったら売っちゃってもいいよ」
そう言って真夜中の訪問者は、驚いて起き上がろうとする俺をそっと撫でて出て行った。
「禍福っていったい何のことだ?」
言葉の意味を考えながら体を起こし、落ちてきた物体を持ち上げて見ると、蔦と花があしらわれた美しい球体だった。
透明な球体の内部に青い蝶が舞っているそれは、触った時に感じられる気配から察するに攻撃補助の装備品のようだ。
「ん?これってまさか強装備か」
塔の帰りがけ愚痴を聞いてくれた友人の顔が頭をよぎった。
「あの後わざわざ探してくれたのか・・・・いらなくなるわけねーじゃんよ」
頭上から降ってきた優しさの欠片をぎゅっと抱きしめて、赤い鳥は再度寝床に丸まった。
次に会ったときにどんな言葉でお礼をしよう、でもその前に禍福の意味も調べなきゃなっと考えながら。
禍福は糾える縄の如し
良いことと悪いことは縒り合わせた縄のように表裏一体である。
禍によりて福となす、成敗の転ずること、譬れば糾える纆のごとし。
悲しいことと嬉しいこと両方が同時に起こったそんな日のお話。